もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米編 (下)

もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米編 (下) (文春文庫)

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(39頁より引用)

かわいいハマグリの淡桃色を一刷きあえかに刷いた、白い、むっちりとした肉、それにレモンをしぼりかけると、キュッとちぢむ。オツユをこぼさないようにそろそろと口にはこび、オツユも肉も一気にすすりこむ。オツユは貝殻に口をつけて最後の一滴まですすりこむ。ムッツリだまったままつぎつぎと一ダース、二皿で合計二十四個。我ながらいささかあさましくなる貪婪さでしゃぶっちゃ捨て。しゃぶっちゃ捨て。口がきけない。ときどき出るのは"!"か、"、"としての吐息ばかりである。
"。"はいつともわからない。
[感想]
開高健がアラスカからフエゴ岬まで釣りをしながら旅をするお話の続き。
下巻はニューヨーク、トロント、オタワ、フロリダ、マイアミを旅する。
ニューヨークでは風俗・食を中心に話が展開し、引用部分のような喜びも伝えてくれる。
オタワではトロフィーサイズのマスキーを釣り上げるが、釣師としての誇りと喜びを深く感じる事ができる。写真とあいまって迫力のある展開だ。
この巻は、主に食と風俗に焦点があたっている。食の件は引用部分を含め、多くの素敵な描写がある。風俗の面はニューヨーク・フロリダ・マイアミについての考察が薀蓄深い。
ニューオリンズのプリザベーションホールについても書かれているが、キッド・トーマスの明朗さ、スイート・エマの壮烈さの描写には心を打たれる。死ぬまで前に進みつづける事の大切さを感じる。
旅をして、美味しいものを食べて、いい音楽が聴きたい。そんな気分になる。
[情報]
ISBN4-16-712708-3
開高健 著(水村孝 写真)
文春文庫
http://ja.wikipedia.org/wiki/開高健
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